症例の紹介

肩痛・五十肩(四十肩)

症例5:バイク事故後、左肩が痛い・挙がらない

DATA

患者: 男性 70代 宝塚市
来院: 2016年5月
鍼灸の経験: なし

症状の特徴と経過

半年前にバイク事故で転倒し左肩関節を強打。そのまま救急車で運ばれレントゲンを撮影した結果、打撲と診断され湿布・痛みどめの処置のみで2週間を過ごす。しかし、痛みは悪化する一方で状態に異変を感じ再度レントゲン・MRIの撮影をお願いすると、靱帯断裂・脱臼した状態であった。
事故後一番大切な急性期の固定を、病院側の診断ミスにより出来なかった結果、半年経過した現在も痛みは同じように続き、特に肩の夜間痛・朝方の痛み、肩がほとんど動かせない状態が辛い。
夜寝る時は温湿布をしないと眠れない。話を聞いた友人の紹介で来院。

5BC81D86-A77C-4D41-94C0-E0F368D195F9

治療の内容と経過

左肩関節は挙上・外転共に90度が精一杯で痛みは特に肩の前・横に強い。
お身体は痛み止めの乱用と、痛みによる精神的な疲れ・睡眠不足から「気陰両虚」という身体の勢い・潤いが共に低下した状態と考えた。

【1鍼目】身体が治るための準備を作る必要があると考え、胃腸・腎陰の補充を中心に身体の滞りを緩やかに巡らせるツボを選択し鍼をおこなった。左肩関節に対しては動かせる範囲を広げる活法手技を用いた。
治療後痛みに変化は無かったが、動かせる範囲は広がった事を相互確認。

【2鍼目】1週間後、経過を尋ねると痛みは変わらないが、食欲が出てきたとの事で顔色も良くなっている。ふとしたうつ伏せ姿勢の時、左肩を無意識に挙げていた事も良い経過の表れである。

【3鍼目】10日後痛みはやや軽減し、夜1回も起きずに熟睡出来ているとの報告。朝方チクチクした痛みが残る。身体の勢いが少しずつ出てきたので連動性の回復を治療方針の中心に置き、股関節・背骨を動かしやすくするツボに鍼をおこなう。

【~5鍼目】同様の施術を隔週で2回おこなった結果、肩関節の可動域は痛みなく、挙上120度・外転150度まで広がっている。まだ朝のチクチクした痛みは残る。
引き続き治療を続けていく予定だったが、外で活動する元気も出て真夏の暑い毎日を、選挙支援活動に費やした結果、極度の貧血で救急搬送され緊急入院。10月末までを1クールとし、輸血通院が続くとのご連絡。現在も治療中である。

同時に治療した症状 不眠
使用した主なツボ T3(1)L、T12(1)L、L2(1)R、太衝LR、太谿LR、衝陽LR

考察

身体が治る為の準備を調えてから肩関節の動きを良くする為、股関節から動きを良くした結果、施術後反動で肩の痛みが強くなる事も無く緩やかに症状が緩和されていったと考える。まだ完治には時間が掛かる状態で緊急入院された事は残念であるが退院された後の準備をしておきたい。

症例4:肩が痛くて挙がらない

DATA

患者: 女性 70 代 伊丹市
来院: 2016年3月
鍼灸の経験 あり

症状の特徴と経過

3週間前、清掃業の仕事中に重い物を持ち上げた際、右肩から肘にかけて激痛が走りそれからは寝返り・着替えもズキズキ痛くて左手に頼る有り様だった。お箸すら重くて休み休み持ちながら食事をとる状態。
整形外科では肩関節炎と診断を受け、ステロイドを処方されるが改善されず。その後、鍼灸接骨院にて電気鍼の治療を受けたが悪化。当院に通う娘さんのご紹介で来院。

治療の内容と経過

数ヶ所に及ぶ手術痕、普段から過食傾向(無理をして食べる)がある事が背景となり、1度起こしてしまった右肩関節の炎症がくすぶった状態で熱がこもり、血液が固まってしまった状態(瘀血症状)が、痛み・動きの制限を引き起こしていると考えた。

まずは血液の流れを良くする事を主とした鍼灸施術・手技をおこない、その中でも肩・膝関節の温灸の強度には特に気を使った。施術後、痛みはあるが動かせる範囲は広がる。

【2~3鍼目】3日後痛みは 10→8、さらに1週間後は 10→5 に緩和。

【5鍼目】3回目以降は血液の流れが良くなってきたので、身体の水の巡りの改善を目的に初診から1ヶ月後の5回目、日常生活・お仕事における肩関節の痛み・動きの不調消失。
その後は隔週でその他の症状治療を継続中。

同時に治療した症状 冷え性(手足)、咳、下半身のむくみ
使用した主なツボ 外関 R、曲池 R、肩貞 R、三陰交 R、足臨泣 R、足三里 L

考察

3週間が経過していたので舌・脈の所見からも炎症はすでに収まっていた。
しかし、熱を追い出せずに身体の中でこもらせてしまった事により少し動くだけで身体に一時的な熱化が起こり、動かすとズキズキ痛い状態が続いたと考えた。
温灸に気を使ったのは温め過ぎると逆に熱化してしまい痛みを引き起こす為である。
心地よい温もりは全身・局所の血液循環を緩やかに巡らせてくれるので、鍼との相乗効果も期待でき、大変効果的である。

症例3:バトミントンで痛めた肩関節痛

DATA

患者: 男性 30代 伊丹市
来院: 2016年3月
鍼灸の経験 あり

症状の特徴と経過

2週間前、社会人バトミントンの練習中シャトルを打ち込んだ際、右肩関節に激痛が走る。
その日は練習を切り上げて痛みが治まる事を待つが一向に良くならず悪化。夜眠っている際も痛くて目が覚める様になり、家でペットボトルをゴミ箱に放り投げる事さえも痛くて出来ない。病院嫌いでどこにも通っていなかったが奥様の強い勧めで来院。

治療の内容と経過

肩関節の炎症に対して処置をしないまま放っておいた為、出血した血液が周囲の組織に侵害した状態で固まり二次的障害が起こってしまった状態。関節可動域が極端に悪い状態に熱がこもって固まり、少し動かすだけでもズキズキとした痛みが発生すると考えた。

一度固まった血液を再修復する為に、インナーマッスルを中心に肩甲骨内側・斜角筋(首前)のツボを使った強刺激の電気鍼 をおこなった。治療後、肩関節の可動域が格段に良くなり、痛みも10→5に半減。
インナートレーニングの助言をして、1週間後まで経過観察。夜間痛は無くなりペットボトルもゴミ箱に投げられた為、4日後の練習に早速参加され、シャトルは打っていないがそれ以外のトレーニングは快調に出来 たとのこと。

【2~3鍼目】パルスの本数を減らし、血液の滞り・水分の巡りを良くするツボを使い、身体のバランスの調整に重きを置いた。さらに1週間後の3回目来院時は、シャトルも打ち始め肩を慣らしているが痛みはなし。 肩の限局した違和感を取る為、肩・肘・手首の連動性を高める手技をメインにパルスはおこなわなかった。
以降、痛みは再発せず練習・仕事に取り組めているとのご報告。

同時に治療した症状 なし
使用した主なツボ 棘上筋、棘下筋、菱形筋、斜角筋、肩関節周囲筋

考察

2週間という長い期間痛みと闘いながらも、痛み止めは意地でも飲まれなかった様である。それが功を奏してか根本の力があった為、電気鍼という患者さんの治癒力をフルに発揮させる一種の力技が功を奏した例である。今、当院で電気鍼を使う事はほとんど無いが、筋肉を一気に緩める・痛みの域値を上げる事に関して長けている事を改めて確認出来た。

症例2:真横に腕が挙がらない四十肩

DATA

患者: 女性 40代 伊丹市
来院: 2015年7月
鍼灸の経験: なし

症状の特徴と経過

8ヶ月前から左の肩が挙がらなくなり整形外科を受診した結果、四十肩の診断を受ける。特に腕を外側に挙げる外転動作が45度までしか挙がらずそれ以上挙げると痛みを伴う。8ヶ月間特にこれといったリハビリも教えてもらえず自然に日が経てば治るものであると言われたが、かばい続けたせいで左首も痛くなり、2か月前からは右の股関節にも歩行時やしゃがんで立ち上がる際に痛みが生じる。
これでは歩けなくなり肩が一生挙がらなくなると考え、息子さんの後押しもあり1ヶ月前からスタジオジムに入会。身体を適度に動かす事で少しずつ肩の可動域が上がっていくのを感じ、このまま治りたいとスタジオのトレーナーさんに伝えた所、当院をご紹介頂く。

治療の内容と経過

右の股関節はストレッチをした際太もも付け根に強い痛みが生じる。特に肩関節前側の上腕二頭筋腱に強い圧痛がある。ストレスをため込む性格で、強い気の滞りと過剰な水分が合わって湿熱を生み出し、この身体の状態が関節の循環を悪くしている根本原因と考えた。

【1鍼目】気の滞り、湿熱を冷ましてさばくツボを手足お腹に1本ずつ。背中にも加える。肩関節・股関節には肩甲骨周りの連動性を高める手技を用いた。施術後、自覚痛に変化はあまりみられないが可動域が約90度まで挙上可能となる。

【2鍼目】1週間後、舌の苔が少なくなっている事を確認。過剰な水分が流れている証拠であり、清熱に重きを置いた治療に切り替える。

【~5鍼目】隔週での4回目、左肩は違和感程度に痛みが緩和され右の股関節も伸ばした痛みは緩和され詰まった痛みのみが残る。トレーニングの出来る種目も増え上半身も積極的に動かすよう提案。
1ヵ月半後の5回目、左肩の違和感も無くなり肩もほぼ180度上まで挙げられる様になり股関節の痛みも違和感が無くなったため、後はトレーニングで身体の連動性を取り戻して頂くよう提案しご卒業頂く。

同時に治療した症状 右股関節痛
使用した主なツボ 中脘、膻中、公孫L、魚際L、太衝R、陽陵泉R

考察

確かに四十肩の完治には時間が掛かると言われているが自然回復までの数か月-1年間、何もしないで痛いのを我慢しろというのは生活の質から考えても相当な苦痛である。四十、五十肩は肩の痛みと拘縮の為に上腕の挙上障害が起こるが筋肉の障害が原因ではない。
よって患者さん自身が持つ自然治癒力を可能な限り100%発揮できる身体の状態に調整し、積極的に肩関節を正確に動かす補助をしてあげる事で、完治の日数は大幅に減らせると考える。今回の症例は息子さんに後押しされた事もあるが自分で治りたいと前に踏み出した結果、先の見えなかった肩の痛みがすみやかに改善された症例である。

症例1:右肩がズキズキ痛くて挙がらない

DATA

患者: 女性 50代 大阪府茨木市
来院: 2015年7月
鍼灸の経験: なし

症状の特徴と経過

2ヶ月前から突然肩が挙がらなくなり、動かすとズキズキした痛みが出現。整形外科を受診した結果、棘上筋の石灰化による五十肩と診断。日にち薬と言われ、湿布と痛み止めを処方される。痛みが強いので近くの鍼灸接骨院に通うも改善する気配はみられない。職場が宝塚の為、当院を通りがかりHPを見て来院。開院日に来院された当院最初の患者さんである。

0D8793C6-4CE5-4057-B6E4-1FA199CB1069

治療の内容と経過

肩の動きを確認すると特に外転運動(肩を水平に挙げる)の可動域が狭くなっている。
お身体の状態は2時~5時という極端な睡眠時間の短さ・質の低下、タバコの常習、食事も肉類に偏っている事から、身体が乾いた状態に気血が鬱滞し、全身(特に上半身)の滞りが肩に定着した状態と考えた。
お腹はみぞおちが硬くなり、舌は淡白色の上に厚みのある苔が乗り、舌先は真っ赤で、舌の裏筋は先まではっきり筋張り、気・血・水全ての滞りの所見がみられる。

【1鍼目】身体の循環を良くするツボを中心に、身体の渇きを潤す方向に施術をおこなう。温灸も加えた治療後、気持ち良かったとのお言葉。肩の挙がりに変化は無いが痛みは緩和する。

【~3鍼目】循環を良くし、身体を潤す方向に施術をおこなうも変化なし。所見としては臍下の固さは和らいでいたが肩の動きに変化は無い。1週間後予約を取って帰られるが、家の事情でキャンセル。

同時に治療した症状 なし
使用した主なツボ 後谿R、合谷R、上巨虚R、太衝R、復溜LR、肝兪R、腎兪R

考察

気・血・水を循環させる(流れを調える)事で痛みが取れると考えていたが、そもそも痛みばかりに意識を向けている事が改善に繋がらない原因であった。生活介入をする余地は無く、滞りを作る原因の排除は困難であった為、当院でやるべき事は動きの視点から可動域をその場で変化させる事が必要であった。
現在であればこの様な患者さんに対しても動きを優先する事で改善を実感しているが、当時はその発想が欠けていた。