症例の紹介

不眠

症例5:気性が激しく、夜寝つきが悪い

DATA

患者: 女の子 6歳 宝塚市
来院: 2017年10月
鍼灸の経験: なし

症状の特徴と経過

お兄ちゃんの喘息が当院で緩和したことがきっかけで、娘さんのご相談も受ける。
落ち着きがなく、気性が激しい。度々の兄妹ゲンカ、円形脱毛も見受けられストレスを抱えているのかなと気になっている。
喘息症状も重なり夜は寝付きが悪いので、朝起きられない。
4ヶ月前の転倒による胸椎圧迫骨折の疑いから、背中が今も痛く、右の中指は鉛筆・チョークを強く持ち過ぎているのか、バネ指症状が出て気になる。

32A864B4-0A77-4F27-BF84-908715F96B74

治療の内容と経過

全ての症状の原因は背中の強い緊張にあると考えた。

初診は極度のこそばがりから身体が敏感になっていたので、背中・膝裏の緊張を取る目的で小児はりを用いた。

【2〜5診目】週1回
2回目の時点で、靴箱から靴を取り出すとき痛かった背中の痛みがほぼ消失。
首周囲・お腹の鍼は気持ち良いと感じるように。

3回目背中を小児はりで無理なく触れるようになり、眠りについてくれた。バネ指と関連のある背中のツボに鍼をおこない仕上げた。
起きたとき指の動きを確認してもらうと痛みが軽減している。

5回目小児はりを全身におこなえ、素直に受けてくれるように。寝付きがよくなっている。

【6〜7診目】月2回
雰囲気が変わっているのでお母さまに尋ねると、兄妹での本の取り合い、キーキーうるさい声が減り、落ち着きが出ているとのこと。
夜もよく眠れるようになり一旦様子をみたいとのご要望により、ご卒業いただく。

同時に治療した症状 背部痛、バネ指
使用した主なツボ 背部(1)、膝裏、T3(1)R、四枢R

考察

一見どこから手をつけていいか分からない様々な症状も、背中の緊張が誘発していると考えると、解決策は見出だせる。
大人でいうむずむず症候群が子供に常にある状態だとすると、落ち着きがない、寝付きが悪い、イライラしやすいなどの状況も理解できるはずである。

症例4:自律神経失調症と診断され、入眠・熟睡できない

DATA

患者: 女性 43歳 宝塚市
来院: 2016年6月
鍼灸の経験: なし

症状の特徴と経過

9ヶ月前、仕事中に吐き気・めまい・手の痺れが出現し仕事が手に付かなくなる。
病院で検査をするもこれといった異常がみられず自律神経失調症と診断を受ける。
それから夜寝付きが悪くなり、ようやく眠れたと思っても2~3時間後には目が覚め熟睡できない日々が続く。
病院では精神安定剤・睡眠導入剤を処方され毎日服用するも昼間は身体がダルく、肩・首はこり固まり、かといって昼寝も出来ない。仕事も暫く休暇を取らせてもらい回復を待つも改善の兆しはみられない。
病院の先生に運動をしなさいと言われ今年2月からジムに通い始めランニングマシーンを中心に身体を動かす。
ご自身でも自分の症状についてあらゆる本やインターネットを通して調べて、良いと思った民間療法は積極的に取り入れる。身体を動かすことで少しずつ昼間の時間も動ける時間が増え、仕事にも復帰。
しかし、夜に民間療法で良いと言われる入眠方法を、眠る3時間前から準備して就寝を迎えるもどうしても寝付きが悪く熟睡できない。
精神安定剤の服用は手放す事ができたが、睡眠導入剤の服用は継続。睡眠導入剤の効果もほぼ無い状態に焦りが募り、他の治療法はありませんか?と先生に尋ねるも、服用を継続してくださいという言葉のみであった。
そんな時、同じような症状だった友人が鍼灸院に通い、症状が改善したとの話を聞き鍼灸は怖いイメージがあったがHPで検索後、少しでも改善するのであればと勇気を出して来院。

8AD4DA87-A77B-4CFA-8816-1097EE0A5330

治療の内容と経過

首を左に傾ける、振り向く事が出来ず両肩に強い緊張。左腕を挙げると肩の痛みが強くなりこめかみと頭のてっぺんにモヤモヤした頭痛がある。首から下には熱がこもった状態で、夜中は背中が熱くなる。
お身体は低血圧と言われる通り血が不足した状態で、身体の勢いを制御・潤す作用の「陰」の弱りがみられ、それによって強い気血の鬱滞が過剰な熱を生み出した状態と考えた。
鍼に極度の恐怖を感じながらの来院の為、お声掛けをしながら出来る限り少ないツボを心掛けた。

【1診目】背中の緊張、首の動き・頭痛の改善を目的として、背中のツボに2本、手首に1本、腰・お尻に1本ずつ、足の甲に1本鍼をおこなった。鍼を用いる毎に首の首の動きを確認すると特に背中、手首、足の甲に鍼を用いた際に改善がみられた。最も恐怖に感じていた鍼の痛みは、「こんなものだったんですね」という反応。
施術直後ガクッと眠気がきたので、これは夜楽しみだと思い、昼寝したい気持ちを我慢するもやはり眠れず。

【2診目】5日後、生理前で肩こりと頭痛が強くなっているので、血の動きを調整するツボを中心に用いる。施術後、肩こり・頭痛が緩和。
後日、お電話にて胸が開いた様で、呼吸がとてもしやすい・頭痛も治療2日後完全に取れた。昼寝もでき、入眠も9ヶ月ぶりに23時~4時まで5時間、週2回眠れたとの嬉しいご報告。

【3~5診目】10日後、首の動きも改善しておりお薬も止めている。次は深い眠りを目指しているので、背中を中心に熱の逃げ道をつくる事を中心に施術。
夜中のほてりも無くなり、食欲も出て調子も良くなっているので入眠の時間を長く保って頂けるるよう血液の補充を中心に施術。
5回目の施術翌日、電話にて今までで一番熟睡でき、身体の調子もとても良いとのご報告。
私用で、1ヶ月間来院期間が空いてしまうので漢方との併用はどうか?と質問をされたので推奨の返事をして、お友達に聞いた心斎橋の「大阪漢方医学振興財団付属診療所」に2週間後、通院。

1ヶ月後経過を尋ねると、治療後ずっと調子がよく熟睡できる日が日に日に増えていたが、漢方服用後、1週間は身体がダルくなり悪化した様に感じられた。しかし、ここ1週間は身体の状態も回復。めまいや頭痛も全く起きず、発症前の状態まであと少しの実感がわいている。
調子が良いという事なので背中・下半身の充実をはかる施術をおこない、1ヶ月に1回の施術ペースと漢方の併用で引き続き診させて頂く。

【6~11診目】7診目で睡眠が安定。漢方の服用を卒業し、月1回の鍼治療のみとする。以後、半年間様子を診て、熟睡感・睡眠の質・生理不順の安定が確保できたため、ご卒業頂く。また何かあればいつでも来院頂く事をお伝えする。(※2017年3月追記)

同時に治療した症状 肩・首こり、頭痛、盗汗(夜中の汗)
使用した主なツボ 心兪LR、神堂L、合谷L、足臨泣R、三陰交R、築賓R、百会

考察

症状の経過を詳しく話してくださり、症状を改善するために全力で取り組まれている姿が印象的だった。
当院では出来る限り簡単な説明と施術法で、患者さんは頭を真っ白にして、ゆったりとした空間で治療を受けて頂く様に心掛けた。
又、民間療法や自分で調べてくださった事は一度忘れて、身体のおもむくままに行動して頂くようお願いした。
その状態でお身体の緊張を背中から解いていく事で、2回目から症状が少しずつ緩和していった。
漢方診療所の先生にも同様の事を言われた様で、直接連絡を取り合ってはいないが良い連携が取れたと感じる。
自律神経失調症と難しい言葉で原因が分からない症状でも、東洋医学では一人一人違う訴えを共通に認識し、把握する事ができる。最近とあるテレビでも言っていたが、患者さんが一番怖い事は自分の症状の原因が分からないことである。原因を見つけ出し、解決までの道筋を患者さんにはっきり示す事が鍼灸師の最初の仕事だろう。

症例3:夜、お酒を飲まないと眠れない

DATA

患者: 女性 40 代 宝塚市
来院: 2016年3月
鍼灸の経験 なし

症状の特徴と経過

昨年から母親の認知症介護で疲労が蓄積し、食事も1日1食しか取れない。今年に入り微熱がずっと続いた状態で、咳・水・身体の痒みなど免疫力低下による症状の出現消失を繰り返す。
この2ヵ月半で体重が10キロ減り常に疲労感を伴う。その中でもまずは夜、飲酒をして睡眠薬を服用しないと眠れない状態を改善したいと考え、近所のお花屋さんのご紹介で来院。

治療の内容と経過

様々な症状が乱雑しご自身でも整理がつかないようだったので、まずは睡眠の確保・免疫力の向上を目指す事を提案。その中で中心となるのは胃腸の弱りの改善と考えた。
食欲はないが毎日の飲酒で無理矢理物を食べて介護による不安を紛らわせていた状態で、身体の中は過剰な水分であふれ胃腸は常に圧迫され弱りきっていた。

【1診目】胃腸を補う足・背中のツボを中心に過剰な水分の排出・上半身と下半身の気血の巡りを改善してくれる手足のツボを追加。治療後、頭がスッキリして背中・腰の痛みが緩和。

【2診目】4日後、頭のモヤモヤが取れている様で、腹診で確認した胃腸の部分も柔和になっている。
睡眠はまだ飲酒を必要としているが、身体に勢いがついているので少し制御をかけながら引き続き胃腸を補う。

【~6診目】2週間後の4回目、寝付きが良くなり飲酒なしで睡眠が取れるようになる。それと同時に微熱も完全に下がり、各症状も緩和され昼間の眠気も改善してきている。
体調も良いようで、食欲が一気に回復し体重が43kg→48kg と5kg も増え驚く。食事の極端なペースでの摂取は控える様、ひとこと添えて様子を診て頂く。
その後1週間に1度のペースでの6回目にはお酒を飲みたい欲が無くなり、一切飲まなくなったが睡眠は変わらず熟睡できているとの嬉しいご報告。

まだ、諸症状が完全に取れた訳では無いが自身で様子をみて何かあればすぐ来院したいというご意向の為、一旦ご卒業頂く。

同時に治療した症状 背部痛、腰痛
使用した主なツボ 公孫 LR、足三里 L、肝兪 L、胃兪 L、腎兪 L、後谿 R、申脈 R

考察

症状や治療内容から元々元気が無い様に感じるが、しっかりとした聞き取りやすい発声・ 楽しい会話・休日には車で旅行に行かれる事もありアクティブな患者さんである。
よって治療で身体を補い元気づける必要はあるが、補い過ぎると制御出来ていない状態で勢いだけが独り歩きする危険があった為、特に慎重に緩やかに制御をかけながら補う蛇行運転の治療を意識した。
それでも食欲が出ると一気に食べ5キロも増量して来院された際は驚いたが、私自身の説明不足でもあり次に生かすべき点である。

症例2:夜中に何度も起きる小児

DATA

患者: 男の子 2歳 宝塚市
来院: 2015年9月
鍼灸の経験 なし

症状の特徴と経過

2ヶ月前から夜中にすんなりと寝てくれない状況が続き、それから少しして夜泣きも出現。
昼寝をする時間も短く、神経が過敏になっているのか物音ひとつですぐ起きてしまう。保育園でも同様だという。そのせいか最近は痙攣を起こしがちで、高熱も出やすい。
夜泣きや疳の虫に子供の鍼が効果的という噂を聞いて、まずは昼寝・夜の睡眠が少しでも改善されればと来院。

0D6414C9-CFBF-405D-8E47-C53317E8EA5A

治療の内容と経過

小児の生体機能の特徴は身体の勢い(熱量)が強い傾向にある。この熱量(エンジン)を適度に調整するのが身体の冷却作用(ラジエーター)であり、これは睡眠によって補充される。
何らかの原因で身体の中で火事が起きた事で寝苦しくなり、眠れなくなる事で冷却機能が低下し更なる不要な熱が産出される。特に夜は冷却作用が低下した身体には、熱がこもりやすく一番辛い時間帯のため、どうにか少しでも熱を少しでも追い出そうと子供は夜泣きで必死に身体から熱を追い出そうとしている。この負の連鎖を止めるには、まず過剰な熱の消火活動を最優先する必要があると考えた。

【1鍼目】熱が集まりやすい背中・両手足の陽経ライン、指先、頭のてっぺんに釘鍼とローラー鍼をおこなう。予想通り、元気な子で最初は嫌がって手足をバタバタしていたが3分を過ぎた辺りから瞼が落ちてくる。治療が終わる10分後には深い眠りにつき抱っこしても物音がしても起きる事はなかった。

【2~4鍼目】1週間後、最初の4日間は嘘のように熟睡できていたが以降、少しずつ眠らなくなってきた。 同様の施術を週1回ペースで3回続けた間、手足の痙攣や手足口病で高熱を出したりしながらも回復し睡眠も安定。

【5鍼目】期間が開いた1ヶ月後、再度活発な状態で来院したが睡眠は良い日悪い日が半々で熱・痙攣もない。その後も眠りの質は上がり落ち着いた状態が続いている。

同時に治療した症状 なし
使用した主なツボ 背中・両手足の陽経(経絡)

考察

子供は熱の塊でこの熱量を泣いたり笑ったりして発散させることでスクスクと成長していく。
眠れなくなる事で身体がどんどん弱っていき日中さえも元気・感情の抑揚が無くなる子供もいるが、このお子さんは勢いが増している段階だったので、熱の分散を優先させる事で良い結果が得られた。
しかし、熱を分散させるだけでは改善に至らない子供もたくさんおられるのは事実であり、アトピーや小児喘息、鼻炎や夜尿症など幅広い症状に対応出来る治療法を学びたく、現在日本で唯一の小児鍼を専門にしている大師流小児鍼の勉強会に参加している。
子供の鍼で最も大切なのは気持ちの良い鍼である。お子さんが安心・信頼してもう一度受けたいと思ってくれる様なな手をこれから作っていきたい。お子さまの事で悩まれている親御さまは是非、安心・安全な鍼灸院という手段も考慮して頂ければ、必ず助けになれるはずである。

症例1:身体は疲れているのに眠れない

DATA

患者: 女性 40 代 愛知県
来院: 2015年8月
鍼灸の経験 あり

症状の特徴と経過

声楽家として全国を回っており、舞台の公演期間は毎日ホテル暮らし。慣れない場所での生活は毎回だが、朝から晩まで稽古漬けで身体は疲れているのに夜寝付きが悪い・夜中起きてしまう状態が続くのは久しぶり。眠れない事で、左半身の首から腰にかけて痛みが強くなり稽古にも支障が出てきた。
1ヶ月後の公演本番を控え、治療してもらえる場所を探していた所、たまたま当院の前を通りがかりHP確認後来院。

治療の内容と経過

左半身の痛みも精神的な疲れも睡眠が取れない事が原因であると考え睡眠の確保を優先した治療方針を立てる。
精神的緊張による気の滞り、毎日夜遅くの外食と睡眠が取れない事で過剰な水分が身体に蓄積し胃腸が弱り切った状態と推察。

【1鍼目】水分の巡りの改善・上下バランスの調整で身体を温めるツボを中心に温灸も用いて鍼灸をおこなった。
施術後は身体が温まり、左半身の痛みも10→5に緩和。

【2鍼目】10日後、経過を確認すると最初の3日間は睡眠がしっかり取れたとの事。
再度身体の痛みが出ている為、前回同様の施術をしていると口内炎が鍼を置いている間で消失したという珍しい出来事も。

【~5鍼目】3週間後の4回目、治療後、5日間続けてぐっすり眠れた。稽古による痛みはあるものの精神的には安定して稽古も順調。本番前日の来院時には左腰の痛みも消失。公演を明日に控え昨日は一睡も出来ず睡眠不足の為、身体を温め潤すツボを中心に施術。
本番後、お電話にて無事公演を全力で終えられたとの嬉しいご報告。また、兵庫圏内に来られた際来院予定。

同時に治療した症状 首こり、腰痛
使用した主なツボ 中脘、外関 R、臨泣 L、陰陵泉 R、内関 R、公孫 L

考察

治療すべきポイントを一つに絞り込めた事が良い結果に繋がった症例。
これを肩・腰全て一生懸命治療してしまうと、受け入れる身体が弱っている患者さんには負担となり逆効果となる事が多い。この症例は特に寒熱の判別を間違えると余計眠れない状態にしてしまう恐れがあるので、引き続き四診を怠らずにおこないたい。